7-3.動的な制御

自分自身には何の非もないのに理屈に合わない仕打ちを受け、どうにも納得が出来ないような経験をしたことはありませんか?

感情を逆なでされ、その時の勢いで相手に怒りを向けてしまい、更に自分自身の感情が収取のつかない状況に陥ったことはありませんか?

「私」という反射的な反応

混雑した電車内で、隣に座った人が無理やり肘で「私」を押し込んできたとしましょう。瞬時に怒りが沸き起こり、隣の人を押し返してしまう場面です。

これまでの記事で繰り返し述べてきた通り、もし上記のような行動を取ってしまったとしても、押し返す瞬間に「よし怒ろう」と感情を高揚させ、「押し返すぞ」といった観念をコントロールするだけの時間はないでしょう。すべては一瞬の間に起こる自動的な反射・反応です。

意識だけではありません。その瞬間に体も複雑な反応をしています。心臓の鼓動が高鳴り、副腎から分泌されたノルアドレナリンが体中の血管を駆け巡り、臨戦態勢に入ります。

無理やり肘で狭いスペースをこじ開け座ってきた人は、そもそも怒りという斥力に支配されています。そして、その隣人の怒りが自分自身の感情を刺激した結果、自分の内部にも怒りが沸き上がります。

是非に拘らない

他人の怒りが自分に向いたときに、それに対し是非を論じても、解決に向かい事態が収束することはないでしょう。怒りを向けてきた相手に反応してしまえば、自分自身も怒りという悪業を抱えてしまうことになります。

そのとき、発生した怒りなどの感情は、記憶として自分自身に強く刻み込まれます。それは、繰り返される度に怒りに支配されやすい性格へと、「私」自身の人格を変えてしまうことに繋がります。

訓練の機会

慢心や怒りなど、苦しみをもたらす煩悩に支配される場面に出会ったら、それを訓練の機会ととらえてみませんか。

もし、隣の誰かが怒りを抱え「私」に接してきたら、「相手の怒りが刺激となって、私に内在する同等のカルマが反応しようとしているぞ。」と、自身の心を内観するのです。

他人の感情は表情や声、態度などの情報として目や耳などの感覚器が感じ取ります。そして、人は通常、その情報に同調し、相手と同様の感情が動いてしまうものです。

しかも、突然他人の感情に遭遇するようなケースでは、自身の急激な心や体の変動に追いつけず、瞬時に反射的な態度を示してしまいます。

一度や二度の経験だけで、自分の内側から沸き起こる怒りなどを受け流すことは難しいかもしれません。それでも、自分自身に内在していた感情の記憶が引き出され、その結果心や体が苦しんでいるという自覚を持ち、状況に対峙する姿勢が大切です。

そうした心や体の観察を繰り返すことで、次第に感情や観念の反射度合いは小さくなっていくものです。とっさに襲ってくる何かしらの出来事に対応できるようになるために、自身の状態を日頃から俯瞰することを心掛けましょう。

カルマの忘却を促す

外界からの刺激が発生したときこそ、それに呼応して感情が動くものです。何もない平穏な時に心を内観するだけではなく、心の動きに動的に対応することは、過去に堆積したカルマを忘却を待たずに消し去ることに繋がります。

日頃から心と体の状態を俯瞰する習慣を持つことで、いざというときに反射的にならないための備えをつくることが出来ます。

外部からの強い感情刺激を能動的に断ち切ることで、一気にカルマを消滅させることが可能となります。なぜなら、沸き上がる怒りや慢心を強い意志を持ち抑止することで、脳の神経回路に感情を抑止し平常心で居ようとする道筋を刻み込むことが出来るからです。

脳内に苦しみとは無縁の神経回路を構築するつもりで、煩悩に流されず、観念に支配されない意識をもちましょう。

他人からの理不尽な仕打ち

外界の刺激により、自身のカルマが否応なく反応しようとする場面は、そのカルマを一掃する絶好の機会です。不可抗力的に他人から怒りを向けれたら、それは自身の自動反応を方向転換させるチャンスです。

急な外部からの刺激に対する覚悟、心構えをつくり、心身の動きを俯瞰する習慣を身につけましょう。

自分自身を一段高いところから俯瞰し、感情や観念の反射を能動的に抑止するのです。そして、いかなる場合も動じることのない、泰然自若とした精神を獲得するのです。

反応を予測する

ある程度、感情や観念の反射を受け流すことが出来るようになってきたら、次のステップでは反応を予測してみることも効果的な対策です。

「あ、感情が動いた、心臓の鼓動も速まってきているようだ、過去の自分ならこ怒りをあらわにして相手を罵倒していただろうな」といった具合に、感情に支配された結果、自分がどんな思考や行動を取るのかを予想してみます。

そこまでできるようになれば、次第に自動反応の程度は低くなり、相手の感情に呼応する振る舞いが無くなっていきます。反応の基盤となっているカルマが力を失うからです。

カルマの消滅

平常時の心の内観は、静かに長い時間をかけ、少しづつカルマを氷解させます。

それに対して、強い外部刺激に同調せず、能動的にやり過ごすことが出来た経験は、心に堆積したカルマを一気に焼き尽くすことに繋がります。

過去の自分なら怒っていたかもしれない、思考や行動が反射的になっていたかもしれない、こような状況を制御できれば、その経験が記憶に強く刻まれます。

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